非情な世界 第一章二話 5

そして、サラと空は――
さんざん、二人で泣いた後、サラはこう言った。

「あーあ。雨だったから、服濡れちゃった。この玉石の性能を見てみるか」

サラが腕輪を持って、赤い玉石の方を上に向けた。
そして目を閉じた。
赤い玉石がキラリと光った時、サラの服が乾いた。
これは、この玉石の中に入っている属性の炎を、瞬間的に体に巡らせることで、服を乾かせたのだ。

「そのペンダントと、腕輪、着けてみれば?」

と空が提案する。

「うん。そうしてみる」

サラはそれに同意する。
ペンダントを着けて、腕輪も着けてみる。
カチ カシャン

「へ?」
「ええ!?」

腕輪に鍵が掛かったようだ。

「ええ?サラ、それ、鍵、掛かったぁ!?」

空が驚きながら言う。

「え!あ、ああ。本当だ。鍵、掛かってる………」
「うわぁ……前からいたずら好きだったけど……そこまで度が過ぎてるとは……」
「ま、いいか」
「いいのっ!?」
「うん。まあ、そうだけど……どうせ、外せないと思うしねぇ……」

諦め気味に、サラが言う。

「ま、サラがいいんなら、文句はないんだけど……」
「じゃあ、早くルリ達のとこ、行こ。結構待たせちゃったし」

そう言って、サラは道の反対側に出ていった。
それを空が、追っていった。

やって来たサラを見て、ルリは、

「あー!サラ姐サンだー!」

と言った。
そして、そのまま4人は、空が作った料理を食べた。
凄くおいしかった。
 そして、その夜。
サラは大木の枝に座っていた。月をぼんやりと眺めている。

「なに? 海」

 海は物音一つ立てずに、サラの所まで登ってきたのだが、意味を成さなかったようだ。
「用が無いんだったら、このまま蹴落とすわよ」

どうやらサラは機嫌が悪いようだ。

「すみません。聞きたい事が、あっただけです」

 海は素直に謝った。彼女は怒ると怖い。

「で、聞きたい事って?」
「あ、えーと・・・・あのさ、この前の返事、聞いてないんだけとって、やっぱいい!
とりあえず、はい!」

 と、海はサラに数珠玉が連なった様な髪ゴムを二つ渡した。
サラはそれを見て「ありがとう」と言った。
そしてそれを一つ使ってポニーテールにした。
まるで決意表明の様にきつく、縛った。

「えと……に、似合うよ」
海はそう言った。顔が少し引きつっている。

「そりゃどーも。あとさっきの答え、なるべくソフトな感じで言ってみると、これ以上にも、これ以下にもなんない。かな」

と言って、サラは飛び降りた。
そこに残された海は、

「ちぇ。ほとんど答え言ってるじゃねえか………」

と、毒づいた。

第1章3話 家出少女!? に続く?

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非情な世界 第一章二話 4

そして、そのころのルリと海は――
テントの中で話し合っていた。
本当は、テントを張った後、小枝とかを取りに行くつもりだったのだが、いきなり、雨が降ってきて、慌ててテントを張って急場をしのいだのだ。

「この様子だったら、今晩も降っちまうなぁ」

と、海が言い、ここぞとばかりに、目を輝かしてルリが言う。

「じゃっじゃあ、聞きたい事を、バンバン聞いちゃっていいですかっ?」
「あ、ああ、いいぜ」

ルリの気迫に気圧されながらも海は言う。

「やったあ!ん~じゃあまず、海と空は、やっぱり、7人の神の護り人なんですか?」

二人を呼び捨てにし、しかも初歩的質問。

「そうだけどさぁ、………気付かなかった?」

と、海。
ルリはそれに反撃する。

「なっなっ確認しただけですよ!じゃあ、サラさんとの関係は!?」
「……な、なんか、まともな問題だな」
「よけいなお世話ですっ!」

海に言い返すルリ。
それを無視して海は言う。

「う~ん。俺とサラとの関係ねえ……と言うか、俺等とサラの関係か。
一番簡単に言うと、幼なじみ、かな。
俺としちゃあ、そこまでしか言えねえけどさ。
まあ、互いに信頼し合っている仲かな。それくらいしかねえけど、それでいい」

少し寂しそうに海は言う。
まるで、それに満足していないかのように。

「……そうなんですか」
ルリはそう言った。
なんか暗い気分を晴らさないといけないと思うのだが、打開策が見つからなく、ルリは途方に暮れる。

「そう言えばさ、お前がサラと会った時、あいつ、どんな顔してた?」

唐突に海が聞く。

「へ? それって、どういうことですか?」

ルリが聞く。
少しだるそうに目をそらして海が言う。

「うあーその。な、なんか、すごく暗そうな顔してなかったか。だ」

それは照れ隠しではないかと思いながらルリは言う。
「………それは、なかったです。なんか、私を見つけて、なんか嬉しいとか、そんな顔でした」
「……本当か?」

海が聞く。
ルリがそれに応える。

「ええ。それに、サラさんはそんなに暗そうな顔とか、してませんでした!」

最後の方は、声を荒げた様に言う。

「・・・そうか。じゃあ、いいや」

海はそう言って安心したように笑った。
ルリは本当はまだ聞きたい事があったのだが、それを言うと、また暗くなりそうなので、やめた。
そして、ふいに雨の音が途絶えた。

「雨、止んだな。……よし。枝を取りにいくぞ」
そう言って海はテントを出た。
それを追ってルリもテントから出ていった。
「でも、濡れてるから薪にならないんじゃないですか?」

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非情な世界 第一章二話 3

そして、サラは空に連れられて少し林を抜け、小さな泉に着いた。

「っく……うっ……」

サラは嗚咽をもらす。
空は、そんなサラの背中を優しくさすった。

「安心して・・冷静になって。物事を正確に見極めるにはそれしかないだろう?」

サラの嗚咽が止まる。
それでもなお、空は話し続ける。

「君なら解っているはずだ。師匠がなぜ死んだか。
 そしてユイとリョウが死んだ理由も・・・」

サラが口を開く。

「私が出て行くとき、師匠に会ったの。その時は、連れ戻されるって思ったわ。
でも、そんなこと師匠は言わなかった。ただ、行って来い。帰る場所はここにあるからって言ってくれたの。でも、小さくこうも呟いてた。もうすぐ、いくからって。言ったの」
 そう、サラは言った。
空は背中に背負っていたリュックから、小さな小箱と紅い布でくるんだ円いものを取り出した。
そして空は、

「これ、師匠から。これは、サラの力を増幅させる物だろう?
師匠は病気だったし、これを作ってそれから……」

 こう言いながらサラに小箱を渡す。
ぱかり。と、サラは小箱を開けた。
その中には、青い雫の形をした玉石が付いているペンダントだった。
おそるおそるサラはそれを、手に取った。
彼女の頬を涙が伝う。
そしてそれが、彼女の悲しみを増幅させる事を解っていながらも、空は金で出来た一つの腕輪を、さらに彼女に渡した。
それは、青い玉石と紅い玉石が、対極の位置にあった。
サラはそれらを握りしめ、キッっと上を見上げた。
上空には、ゆっくりと大きくなっていく黒い雲が、あった。
やがて、分厚く黒い雲が雨水を落とす。
雷雨の中、声を押し殺す様にサラは泣く。

誰もその声を聞くのは容易い事ではないというのに………
空はそんなサラを見て、自分も泣きたくなった。
妹も消えて、その妹と仲良くしていた子も消えて、尊敬する人さえも、消えた。
それに、元来彼は泣きやすいのだ。
意を決して空はサラに抱きついた。

「僕だって悲しいよ。最後まで一緒に居たんだから!」

空がそう言うと、サラは消えそうな声で言った。

「ごめんなさい。私のせいよね。私のせいで、皆が……」
「ちがうよ……サラのせいじゃないから……さ。そうじゃなくて、僕が、僕が……」

 罪のかばい合い。
つうっと二人の頬に流れた雫は、果たして雨か涙か……。
二人は声を上げて、泣いた。
同じ苦しみを持った者として。
打たれ弱い者として。
声の限り。

初めは空が、ルリの説明役でした。

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非情な世界 第一章二話 2

「「それは……っ…!」」

 見事に動きと声が重なる。それも左右対称に、だ。

「なんで、どうして、あの人が……」
サラは小さく呟く。
ルリにはその言葉の続きが、聞こえた様な気がした。
――何であの人が……師匠が……死ななきゃ……ならないの――
と。
サラはそのまま泣き出してしまいそうだ。

「っと。サラ、とりあえずこっちに行こう」
と、空がサラの手を引いた。

「ちょっと待って下さい。サラ姐さんを、どこに連れて行くんですか?」

ルリが慌てて聞く。

「どこって、ここじゃあ人目につくだろ。もっと静かな所で話すんだ。
 それに丁度、この林を少し抜けた所に小さな泉があるし」

と、海が言った。
ルリは納得したが、そこでもう一つ疑問が湧いてくる。

「じゃあ、その間私とあんたはどうするの?」

そのルリの質問を、海が答える。

「ん、じゃあ俺らは道の、反対側にいけばいい。そこでテントも張ってな。
 あ、それとお前の名前まだ聞いてなかったな。名前は?」

海が聞く。
ルリは、そう言えば自分の名前を言ってなかったなあと思い、自己紹介。

「私はルリって言うの。よろしく。そういえばあんた・・・海って呼んでいい?
 海はもしかして……」「まだ言うな」

海はルリの言葉を制して、
「その話は後でしよう」
と言い、先にサラがいる方の反対側の林に入って行った。
ルリも慌てて海の方に行った。

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非情な世界 第1章2話 1

第1章2話 二人の騎士

二人の少年が、サラ達を見ていた。
そして、一人の少年が口を開く。

「さて、行きますか。サラの所へ」

もう一人の少年も、同調する様に口を開く。

「うん。そうだね」

二人は同時に足を踏み出した。

――ガサ

「誰!?」

 ルリと談笑していたサラは、その物音に反応して声を上げた。
と、容姿が似ている二人の少年が、言い合いながら出てきた。

「だから、もっとバーンってぶつかるやつがよかったのに」
「そんな事したら、再会の瞬間に八つ裂きだよ」

 片方の少年が、連れの過激な言葉に、にっこりと笑って答える。
どうやら二人はサラを知っているようだ

「‥‥双子?」

 そんな二人を見ていたルリが言った。

「「そうだよ」」

ちゃんと声がそろっている。

「僕が空で・・」「俺が海」
「いや、そんなこと言われても見分けがつかないから」

と、ルリはザックリと言うことにした。

「じゃあ、このイヤリングかな、これで見分けをつけるといいよ」
「サクランボみたいなイヤリングをつけている俺が海で」
「ピアスみたいなのつけてるのが、僕、空だよ」

 まぁ、それでもまだよく2人を見分けれないのだが。

「……して……」

 後ろから声が聞こえる。
そう言えばサラ姐さんが後ろにいたんだっけなと、ルリが後ろを振り向くと。

「サラ姐さん、どうしたんですか・・・・?」

そのルリの言葉もサラには届いてないようだ。
地面にぺたんと腰を下ろして座って小さく呟き始めた。

「空……海……どうして……どうして、あなた達がいるの……?」

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.hack//万華鏡 序

ちょっとさらして見ます。一話とか、二話の話が一番恥ずかしい・・・

   ープロローグー
 全ては何か?
 ここはLvが左右する
 それがThe Warld
 だが、一つLvをも揺るがすものがある
 それは『心』
 強き思いは神の心を揺るがす
 そして神は力を貸す
 神は悪だろうか?
 神は善だろうか?
 大いなるものの善悪を小さきものがはかることはできぬ
 まして、それを封じ込めることなど………
 小さきものは苦しむであろう
 罪の呵責にさいなまれる
 小さきものよ
 すべてを捨て、必死に生きよ
 ここは決して架空の世界などではない
 そなたにとってここは本物
 目をそらし続けると自分を見失うぞ
 自我を保て
 思いを繋げ
 大切な人を想え
 その行為は尊いものだ
 さあ、進め
 仲間の手を取れ

 それは何よりも代えがたいものぞ

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非情な世界 一章一話 5

 5

「うわーー!! もっと早く言って下さいよう~!!」
「だっから、さっき言ったじゃないの!」

 二人が、言い合いながら、吊り橋を走って行く。

「やっと……走り……抜けたぁ……」

 ――ブチッ ブチッ カラカラ
残りのロープが切れ、吊り橋が、音を立てて落ちていく。

「ひぃ~」

ルリが、落ちていった吊り橋を見て、情けない悲鳴を上げる。

「やっぱ、あそこで契約の儀をしたのが、いけなかったわねぇ」

冷静にサラが言う。

「え~ひどいですよぅ。
 それより一つと言うか、いくつか聞きたいコトが、あるんですが……」
「ん~何?質問によっては、答えてあげても良いよ」
「じゃあ、玉石って、なんですか? それに、玉石獣ってのも、なんですか?」

ルリが、二つ続けに、質問してきた。

「え~と、両方は、つながっているんだけれど、う~ん・・・」

サラが、考えこむ。
ルリは、難しい問題だったかなと思い、質問を取り消そうとサラに呼びかけようとした。
「あ、やっぱりい……」
「じゃあ、言うわよ。ってルリ、何か言いかけた?」
「い、いいえ……」

 そうルリは返事したが、(もし言ったら、怒られそ~)と、思っていた。

「え~と、玉石って言うのは、いわゆる念とか気とかが、結晶になったものかな。
 練習したら、たぶんルリだって作れるよ。こんなかんじにね」

 サラはルリに実演する。
 サラは、両目を閉じて、両手を前に出した。
集中力が必要なのか、少し眉間にシワがよっている。
 そして、サラの両手から、光の粒子が集まってきて、やがてそれは一つの玉になった

「ま、これは結構な練習と時間が必要だからね。
 で、説明の続きだけど、玉石獣は、さっき作ったこの玉石を、ある土地に長く住み着く怪物と言うかモンスターに、その玉石に宿らせると、その玉石に宿った者は、玉石獣になるの。
で、その時に契約の儀があるんだけど、そのときに言う命文は覚えるのが大変よ。
あと、玉石の中に怪物とか入れてない場合は、肉体を持たない者の器になるし、一応それなりの力が入っているから、いろんなことにも役立つわ。ルリ、ここまではわかった?
「ええまあ、一応。ぐちゃぐちゃしてわかんないけど」

 と、ルリは言ったが、サラは最後の方は無視したようだ。

「そう、じゃ、もう一つ。念糸を作るわよ」

ルリは、(ねんしってなに?)と思っていたが、だまっていた。どうせ説明してくれるのだから、ここで話の腰を折るのはよろしくない。

「玉石を、アクセサリーとかにする時には念を込めて作る念糸を作るのよ。」

 サラは、これは簡単なんだよね~と言いながら、右手を出しながら、眼を閉じた。
 そうすると、ふわりふわりと、青い糸が出てくる。
それはとても幻想的なものだった。
 サラは、その青い糸で円を描くように、右手を回した。
糸の両方の先端が、つながる。
糸の輪が出来たとき、サラは眼を開けた。

「っと、上手く出来たかな?」

サラは糸を注意深く眺めてこう言った。

「よしっ、上出来上出来。ってどうしたの?ルリ。」

なにせルリは、ぽかんと口を開けて、ただただサラのやることを見ていたのだ。
サラが不思議に思うはずだ。

「いっいえ、何でも……ないで……す」
「あっそう。それで、玉石と念糸は、くっつけるというか、同じ人が作った物なら、玉石の方に穴が開くわ」

 サラが玉石を左手に、念糸を右手に持った。
 ――チリーン
そんな音がして、玉石に穴が開き、そこに念糸が通った。

「はい。これ、ルリにあげる。8人の仲間の証として」

 ま、私は仲間というより主人だけどねーと、付け足して、サラはルリに念糸がついた玉石を渡す。

「え、あ、はい。ありがとうございます」

 ルリは受け取った。

「じゃあ北の方角に。そっちのほうに行くよ」
「は~い!」

そんな二人の会話を、見ている者がいた。
体格は普通の少年だった。

「まさかこんなに早く見つかるとは……嬉しいよ」
「早くサラの驚く顔が、見たいね………」

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非情な世界 一章一話 4

 4

「確かにこの吊り橋、高いわねー」

 サラたちは、つり橋の上にいた。
サラが下を見ると下にあるはずの、川が見えない。つまり、それほど高いのだ。

「うひ、やややっぱりやめたほうがぁ……。こわっ怖い~」
「何言ってんのよ。もう、ここまで来たんだし」

 つり橋の真ん中まで行くと、
 ――ゴウッ ビュウウウ
突風が吹いた。
 ルリはとっさにサラにしがみつく。
 サラは突風の中、せめて風を巻き起こしている犯人を見ようと目を開ける。

「っく……!」

 突風を起こした犯人は、カラスが自分の体と同じくらいの翼を、はためかせていた。
だが、そのカラスは普通の黒いカラスでは、なかった。
とてつもなく大きな胴体に翼、一本の巨大な足。
そして、一つしかない緑色をした巨大な眼。
だがサラは、その姿に少し驚きはしたが、言葉を続ける。

「あんたがここを通る者達を通させまいとする化け物ね。その力、なんか他のものに、使おうって気はないの?」

なんか説教ぽい。
相手は短く、だが簡潔に言った。

『ないな』
(それだけか・・)

 と、サラは内心溜息をつきながらも、口元に大胆不敵な笑みを見せて、言葉を続けた。
「じゃあ、私のもとで動かない?」
『はぁ?』
「あっ姐サン!なななんてことを言っちゃてるんですか!」

そんな二人?の言葉を無視してサラは言葉を続けた。

「だって私は、この世界の王、“白銀の者”よ」

 くすりとサラが笑い、瞬きをした。そしてその瞬間――

「あ……」

 ルリは、驚きのあまり、声をあげてしまった。
そこには、彼女がずっとさがし続けていた人がいたから。
もちろん、その人はサラだと思っていた直感で、そう感じたから。
あの時、自分に勇気を、‘自分は一人じゃない’と、確信をくれた人。
 ルリは、サラのやることを、ただただ見ていた。それしか、できなかった。

「どう?これなら、文句は、出ないでしょう?」
『ははは。面白い。そう言うことならよいぞ。ここ数百年と玉石獣になっておらんしな』(ぎょ、ぎょくせきじゅうって、なに?)

と、ルリは思ったが、口には出せなかった。

「じゃあ、契約の儀、始めるわよ」
『ああ』
「主の盾となり剣となる者よ。我への忠誠を表し、ここに今から我の部下となり、そなたの力を、我に与えよ」

 サラが、その巨大なカラスに向かって右腕を差し出す。
カラスとサラの間に、一つの緑色の小さな玉が、出来上がる。
 その玉は、ゆっくりと、サラの方に向かってくる。
サラは、その玉をしっかりと持ち、カラスに見せる。

『それが、我の新しい場所、か・・・』

カラスがだんだん、人の形を成していく。

「そなたは、この玉石に宿り、永久なる力を。名を……名を……」
『フウ』

ぼそっと、そのフウが付け足した。

「名を、フウとする」

 慌てて、サラが付け足した。
 ――ゴウッ ビュウーーー
フウが、その、玉石の中に、吸い込まれていく。
辺りが、一瞬、明るくなって、
その明るさに、ルリは声を上げてしまった。
ゆっくり目をあけると、緑色の玉が、ゆっくりとサラの手元に収まる。

「ルリ、早くこの橋渡るわよ」
「え、あ、は~い。 でも、その前に聞きたいコトがあるんですけど~」
「はいはい。でも、ここもうすぐ壊れるから。ほら、あそこ」

 サラが、指さした所のロープが、ブチッと音をたてて、切れる。

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非情な世界 一章一話 3

 3

「じゃあ、行くよ」
「は?行くって、どこに?」

 もちろん、ボケてたのは、ルリ。

「あそこ」

サラが示した所は、今にもこわれそうな橋。
しかも、ロープが切れたら、奈落の底に叩きつけられる。

「わぁああ、あそこは、危険ですよう!」
「いや、見たら分かるから。でも、ここ行かないと、次の目的地につけないし」
「わかりました。それなら、それなら、仕方ないですよねぇ……怖い……。
って、そうじゃなくて! あそこにはむっちゃくっちゃ怖い化け物がいるんですよ!」
「へぇ~、そうなんだ~」
「こっ怖くないんですか?」
「ええ」

 ・・・。
 微妙な時間。

「じゃあ行くよー!」
「えー!! 少し待ってくださ~い! せめて、せめて、その化け物の話だけでも、聞いてくださいよ~」
「……じゃあ、その話だけね」

 ルリは息を吸って、話し始めた。

「あの橋を渡っていくと、カラスの様な形の大きな化け物がいまして、それが橋を渡る人達を、さらって行くんです。そして、数週間後にさらわれた人達は戻ってくるんです。でも、さらわれた時の記憶は無くなっていて、体が衰弱しているんです。
だから、あそこは、街の人達にとっても、恐ろしい場所で、誰も近づかないんです」

 と、ルリの話は終わった。

「ふ~ん。じゃあ行くから」
「え~! どうしてですか~!」

どうやらルリは、どうしても行きたくないらしい。ルリは、てこでも動かないと言うようにしゃがみ込んだ。

「大丈夫、大丈夫!ちゃんと退治してあげる!」

 しゃがみこんだルリをサラが力強く慰める。

「へ?も、もう一度言ってください!」
「じゃあ、もう一度言うよ『ちゃんと退治してあげる』って言ったけど……」
「ほ、本当ですか?」
「ええ」
「やったー!じゃあもう、怖くなーい!ああでも、あそこをわたるのは……」
「じゃあ行くよ」

 呟いているルリを無視して、サラは歩き出す。

「あわわ、待ってください~」

 そしてルリはその後を追いかけていった。

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非情な世界 一章一話 2

 2

 ――ザッザッ
 木の枝と枝の間を縫うように、黒い人影が一つ飛んでいた。
 彼女は、町の門が見える枝に飛び移る。
彼女の髪は銀色で、瞳は血のような赤。
そう、彼女は毒蛇だ。そして、

「四人目、思ったよりも早く見つけたわ。」

 と言って木の枝を飛び降りた。
その瞬間、彼女の髪はスミレ色に、瞳は黄色になっていた。
 それは【禁じの術】をつかったのだった。
【禁じの術】とは、自分の眼や髪の色を変えられる術で、その名の通り、今は禁じられている術だった。
 そして、力の消費がすごいことも、禁じられている理由の一つである。

 てくてくと、彼女は歩いていく。
彼女は綺麗ではあったが、目だけで人を殺しそうな鋭い目をしていた。

 彼女は店に入り、食料を買って、鞄に詰めた。
そして来た方向と反対の門をくぐり、街を出ていく。
だが彼女は、途中でピタリと足をとめた。

「何よ」

 その言葉は彼女の後ろにいた、少し幼い少女に向けられていた。

「女の一人歩きは、キケンだよ。姐サン」
(あ、あねさんて・・・)

少女に絶句しながらも彼女は答える。

「あんただって、女じゃない」
「あーそーでした。姐サンは、強いんですよね。なんたって毒蛇ですもん」

 ――チキッ
 彼女は次の瞬間、短剣を少女の喉元につきつけた。
少女は抵抗しないあかしとして、両手をあげる。
そして、両手をあげながら、自己紹介。

「えーと私は、6人の……じゃなくて、7人の神の護り人の一人です。姐さんは、毒蛇さんですよねー?」
「・・・」

短剣をもどして、彼女も自己紹介。

「私は、サラ。あなたの夢の中の少女よ。あなたの名前は?」
「………私の……名前?それは、ないですよ~。どうせなら、サラ姐さんが、つけて下さい~」

 少女は少しヘラヘラした顔で笑っていた。
サラは、あらためて少女をじっくり見た。

「・・瑠璃色の髪・・るり・・るり・・そうだ! あなたの名前は、ルリでどう?」
「はい!それでいいです」

 その時ルリは、サラにつけてもらった名前が、本当の自分の名だった様な気がした。
彼女には名が、無かったから。記号としてしか、呼ばれた事が無かった故に。

「じゃ、これからヨロシクね!ルリ」

 そう言って、サラは笑った。
そのほほえみは彼女の魅力を引き出すには、十分だった。

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